不動産売却で複数社から売り出すには?
マンションや不動産の売却で複数の不動産業者に広告を出稿してもらう方法の2つあります。1つは囲い込みをしないと明言する業者への依頼で、もう1つは一般媒介の活用です。
囲い込みをせず積極的に広告を許可すると明言する業者は、依頼先は1社だとしても、実際には広告は複数業者から出すことができます。
競わることができるとされる一般媒介ですが、すべての依頼先の腰が引けてしまうという短所もあります。長期化を覚悟しないとなりません。
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author:春日秀典
複数の会社に広告を出してもらうメリット
複数の不動産会社に扱ってもらうということは、複数の不動産会社が広告を出すということです。複数の不動産会社に広告を出してもらう方法は2つあります。
後述しますが、一般媒介でいくか、専任媒介で行くか、売却の作戦は、売却の流れのはやい段階で、作戦を考えなけれなりません。
多くの買主に物件情報が届く
まず第一のメリットは、多くの買主にアプローチすることです。複数の会社に扱ってもらうと、物件を囲い込みされて、おもちゃにされるリスクは格段に減ります。その意味では、不動産業者の営業トークにひるむことなく、必ずやるべきことといえます。
高く、早く売ろうとするならば、多くの買主候補が検討の対象にしなければなりません。多くの買主候補が検討の対象にするには、多くの方に情報が届かねばなりません。
当社が物元になった場合ですと、多いときで60社から広告を出していただいたことがあります。この時は本当に対応で忙しかったです。当時でも高額の物件だったので、1チャンスを狙ったのだと思います。通常でも、10社内外の業者さんからお取り扱いをいただいくようになっています。
これらの会社さんがキープする顧客に物件情報が届くことになります。
「公平に扱うことができる物件」というメッセージ
複数の業者が広告を出している物件は、大ぜいの業者さんに、囲い込みがない物件という暗黙のメッセージを送ることができて、根本的な囲い込み対策なります。これが本質的なメリットです。
筆者は小さな不動産会社の経営者ですが、大手業者のみが1社だけが広告をしている物件は、囲い込みをされている物件か否か、常に警戒します。しかし人間心理として、警戒をしながら安心しておススメすることはできません。
そこで、物件を取り扱わないという方針になります。これは当社も同じです。囲い込みがない物件と確認できないと、取り扱わない方針となります。
問題は、取り扱うふりをする業者の存在です。最終的にその物件を選択させないように営業トークでブロックして、物件を潰す行動をとります。こうなると不毛な戦いです。
複数の不動産業者が扱っている物件は、多くの不動産業者さんにススメされるようになります。
物件は売れない物件なのか?
複数の不動産屋から出ていると売れない物件と勘違いしている人がいます。しかし、この考え方は、どちらかというと都市伝説の類です。一般媒介に出させたくない不動産業者が、売主の不安をあおる営業トークとして存在していました。
いまや複数の不動産屋から出ていると売れない物件と考える人はいません。SNSやネットから不動産知識の情報が多く出ています。今読んでいるこのページも、その一つです。
そのような情報を通して、ほとんどの買主は、レインズの存在も知っています。ほとんどの人が、同じ物件情報が、レインズを情報源にして、いろんな仲介業者が紹介していることを知っています。仲介業者同士も競っていることも知っています。
筆者の経験としても1%くらいの価格交渉をうけることはありました。その程度なら、想定の範囲内だと思いますので、売れないということの証拠にはなりません。むしろ、しっかりとした営業マンに任せることを重視すべきだと言えます。
複数から出さないほうがいい場合
物件によっては、本当にレアな物件というのもあります。相場というものがあってないようなタイプの物件です。物件価格にして10億円以上のもので、富裕層から富裕層へ受け継がれるものです。このようなタイプは多くの買主にアプローチしないほうがいい場合もあります。
ただし、時間はかかります。もちろん普通に売って時間はかかりますし、所有者側もスケジュールを関係ありませんので、露出度を低くして「未公開」という選出により特別感を出す作戦がいいかもしれません。
囲い込みをしないと明言する業者を活用する方法
もう一つは「囲い込みをしないと明言する業者」に売却活動を依頼することです。当社もそのような販売戦略で売却を受託しています。
1社あたりの集客は大手よりも小さいのですが、他社でも積極的に広告を許可することで、業者が束となります。結果としては強力に集客が可能です。
他社による広告を許可する不動産会社
「物件シェアを得意とするタイプの業者」の存在はわりと少数派ですが、「物件の囲い込み」をしないと明言していますので、すぐわかるはずです。
このような業者は、客付けすることが得意・特化している不動産業者との共同仲介を積極的に容認します。
客付けに特化した会社は、販売を専門にするので、俗に「販社」とも呼ばれます。販社は、他社の物件で広告物件だとしても、すぐ成果を決めたいと考えています。これは在庫が多い大手との違いです。
ただ、もし決まらなくても、獲得した顧客は販社の見込み客になります。販社にとって、これもメリットです。
ちなみに、販社への仲介手数料は買主が支払います。このような取引を、「分かれ」といいます。
広く伝えることができる
囲い込みをしないと明言する業者に依頼すれば、売却を依頼された業者はレインズなどの業者間のネットワークに情報を掲載して販売情報を広げていきます。
売却受託会社と販社では、「広告の承諾依頼」「広告承諾」いう、業者間で習慣化されたフォーマットにより、広告出稿を許可していきます。この方法なら取扱い会社の拡散は3社以上です。上手に進めれば10社以上が取り扱うことも可能です。同じ物件を複数の会社が広告していることがありますが、このように複数の販社が競争して取り扱っているからです。
ただ、このような手法は中小業者が多いと思います。他社が広告を実施することを許可する大手を、いままで見たことがありません。東京でいうと、不動産会社は24000社以上ありますので、大小多くの販売会社があります。
大手は採用しない戦法
不動産仲介業は原価がありませんので、売れなくても損はありません。資金力が高い大きな大手はとくにそうです。販売に時間がかかっても仲介手数料を両手にした方が効率はあがります。
会社によっては「分かれ」の取引を禁止している会社もあるそうです。このような表には言いづらい事情により、「囲い込みをしない」「広告を積極的に推進する」とは断言できません。
故意の高額査定が後を絶たないのはこのような事情もあります。
しかし、小さな会社は売れないとお金になりませんので、スピードを重視します。だから「他社にも広告してほしい」となります。
このような情報を図面の帯(販売チラシ・図面の下部の長方形の部分)に記載して、他社から広告を出稿することを禁止します。
一般媒介を活用する方法
媒介とは仲介と同じ(同義語)です。不動産売却を依頼する場合、3つの依頼形態があります。「一般」「専任」「専属」です。このうち「一般」を活用します。
重複して売却依頼が可能
一般媒介とは仲介を依頼する形態の一種で、依頼者(売主や貸主)が複数の不動産業者に重複して依頼できる媒介契約をいいます。複数の業者に依頼することができます。ただ、デメリットもあります。
小さい会社は不安(大手に依頼したい人向き)
聞いたことがない業者に売却活動を任せるのはどうしても不安という方は、大手不動産業者に売却を依頼されるのが向いているかもしれません。このような方々は一般媒介を活用した大手仲介業者への依頼が向いています。
大手業者のメリットの一つは「知名度」「安心感」ですが、デメリットもあります。デメリットは囲い込みされてしまうリスクです。人数が多いので、どうしても、「感じがいいだけで腹黒い担当者」や「頼りない担当者」が出てくる可能性を否定できません。
このとき、一般媒介を活用します。複数の業者に依頼を出すことで、大手同士でけん制してもらえれば、囲い込みの有無を心配する必要がなくなります。期待以上に物件情報が拡散はしませんが、セカンドベストとしては、お勧めです。
一般媒介による販売のデメリット
一般媒介で複数先に依頼するから、各業者が競ってくれるということはありません。勘違いしてはいけないのは、不動産屋が頑張る物件は、どのようなときでも、「成約に近い物件」だけです。一般、専任は関係ありません。高く売るには高く売る方法を採用しなければなりません。
やるきを出さない人
一般媒介だけではないないのかもしれませんが、依頼をする場合は、人を見なければなりません。中小零細の不動産屋さんですと、そもそもものぐさだから不動産屋になったという人は多いですし、IT業務などは訓練された人が少ないです。ものぐさな人が担当者になっていまうと、驚いたことに販売図面すら作らない人もいます。物件がもともと力を入れる対象ではなく、担当者がポンコツとなれば、確かにさらし物のようになることはあります。
依頼先が限定される
一般媒介は、売主自身が物件情報を広げる意欲がある人が利用する制度です。しかし売主が依頼した会社の数以上に情報が行き渡ることはありません。
一般媒介の利用には、売主個人が自ら業者に相談しなければなりません。情報を拡散するためには、そう多くに依頼できないことが障害となる場合があります。仕事をしている個人であれば、3社くらいが依頼できる限界となると思います。
相談した以上に物件が出ることはありませんから、実際に一般媒介で出てくる物件を見ていると、3社、多くて4社くらいが取扱社数となっているようです。個人が取り扱いの不動産業者を増やそうとすれば、これは大きなハードルです。
当社に依頼いただいて当社が大本で物件を拡散させれば、実績では15社~60社の会社が広告をしてくれますから、拡散力は大きな違いがあります。
レインズ掲載義務がない
法律の考え方では、一般媒介では売主さん自己責任で物件情報を行き渡らせます。そのため、不動産業者がレインズに掲載する義務がありません。実際には、一般媒介で受託した場合には、レインズに掲載しない業者もでてきます。レインズに掲載する業者との比率は半々くらいでしょうか。
あえて一般媒介を活用することで物件を囲い込む方法もあります。一般媒介を利用した囲い込みは売主さんが納得の上で進めるなら問題はありませんが、悪用する業者もいますので要注意です。
業務報告をする義務がない
宅地建物取引業法に基づき、不動産業者が物件売却を依頼されたときに、業者は依頼者に対して業務の処理状況を報告しなければ義務があります。しかし、一般媒介においてはこの義務はありません。
状況の報告がないため、各社がどのように活動しているか見えてきません。義務があるのは、「専任媒介」や「専属専任媒介」で委託を受けた業者のみです。
重要顧客としては見られない
ただ、担当者の気分の問題は大きく影響します。やる気の低下です。「返報性の原理」といいますが、人は信頼を受けた他人にはお返しをしなければならないという感情を抱きます。信頼してくれた顧客ほど、成果で返したいと注意を払うものです。
競わせたいと考えていても、信頼されてないなと感じさせれば、競ってくれることはありません。また、不動産会社にとっては、成果が実る可能性が低い部分に、時間とお金をかけることはできません。
不動産会社としては、たまに来た反響に対応する程度にして、販売努力をしないことが一番効率が良くなります。大きな会社ほど、他の物件があります。専任物件があれば、そちらの方が重要な扱いになります。
情報の調査や確認がおそろかになる
一般媒介で売却を委託すると気に少し怖いのがこれです。一般媒介の場合は売主が複数の業者に売り依頼をかけることができるため、1社以外は手数料を回収できません。売却活動にかかった費用を回収できないので、物件状況の確認や調査をおざなりにしてしまう不動産業者も出てきてしまうのが実情です。
管理会社は管理状況に関する詳細な情報を保持しています。管理費・修繕積立金の残高など多岐にわたります。このような調査は丁寧な仕事をする会社に売却活動を依頼しないと、情報はしっかりと取得できません。いい加減な情報を提供することで、後で商談が壊れることだってあります。