不動産の一件資料は売れ行きも左右する
販売図面・販売チラシよりも踏み込んだ検討資料を、俗に「一件資料」といいます。重要事項説明書の記載内容に近い情報を確認することができます。
収集には負荷がかかることもあり、みだりに不動産業者に請求するものでもありませんが、購入に向けて極めて前向きであれば、確認をすべき内容です。
一件資料の提供の対応や体制の構築は、個人の売主が売却委託先を選定するときも重要です。囲い込みという点で、だれを優先しているのか、業者の姿勢を読み取ることができます。
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author:春日秀典
目次
購入判断に重要な影響を及ぼす一件資料とは
不動産売買の現場において、初期的な検討で提供する物件の概要情報を「図面」といいます。図面より少し踏み込んだ詳細の検討資料のことを、不動産業者のいわゆる業界用語では、一件資料と呼んでいます。
一件資料とは
一件資料はひとまとまりの検討資料として、具体的な例を挙げると以下のような資料を指します。設備表・状況報告書とともに重要事項説明書の添付書類にも用いられるため、重要な位置を占めます。
- 一件資料の例
- 登記簿謄本
- 公図
- 建物平面図
- 測量図
- 建築確認台帳記載事項証明
- 概要書
- 建築確認証
- 検査済証
- 評価証明
- 管理の重要調査報告(マンション)
一件資料は一見資料と書く場合もあるようです。一件書類という場合もあるようです。ここでは一件資料で統一します。
「一件資料」を構成する書類に具体的な定義はありませんが、詳細理解のための検討資料ですので、おおね以上のようになるようです。一件資料を入手できれば、重要事項説明の作成がかなりの程度できます。
一件資料を構成する情報のなかには、売主本人の委託(委任状)を受けていないと取得できない検討資料があります(例・評価証明・耐震診断の写し)。また、市区町村・都道府県役所に行かなければ取り付けられない検討資料などもあります(例・建築確認台帳記載事項など)
余談ですが、関東エリアでは「図面」を「マイソク」ということもあります。昭和40年代ころ、「毎日速報センター」という会社が始めた形式なので、マイソクというそうです。
一件資料の意義
一件資料からは、告知事項のような「本人しか知りえない情報」以外については、かなり重要な情報も確認することができます。
たとえば、建築確認・検査済みを見れば、建物が合法に建築されたかどうか、あるいは耐震適合証明が取得できるか否かすぐ判断できます。管理費の滞納に関する情報などは、管理の重要調査報告という検討資料で確認できます。管理組合によっては告知事項なども、管理会社によっては報告している場合もあります(しない場合がほとんどですが)。
なお、告知事項のような「本人しか知りえない情報」については「設備表・状況報告書」を用いて理解することになります。不動産業者がお手伝いできるのはここまでですが、さらに建物の状態に対して詳細のコンディションを把握したいときは「インスペクション」を活用するとよいでしょう。ここまで進めば知るべき情報は押さえたと言って差し支えありません。
一件資料を交付しないデメリット
一件資料は買主さんの的確な判断に役立つ検討資料です。このような検討資料を的確に行わないと、買主に正しい情報は届きません。詳細は後述しますが、一件資料の交付を怠る業者を売却のパートナーとして選定することは、売主にとっても大きなデメリットを抱えていると言えます。
しかし、現状では一件資料の交付は人力と担当者の一存によって判断している会社も多く、中小から大手まで、まだ体制がしっかりしているとは言えないように感じます。
一件資料の収集方法
不動産業者にとって、内見時にお客様に一件資料を交付することは必ずしも義務ではありません。任意・善意で行われているのが実情です。そのため様式など法的な規制・縛りはありません。そのため、現在のところ各不動産会社によってばらつきがあります。
業者売主の物件の場合
業者売主とは「建売業者」や「リノベーション業者」など、自ら売買をする業者のことです。業者売主の場合、最近は業者間の情報ページを自ら構築して、検討資料の提供を対応する形態の業者さんも多くなってきました。
たとえば、我々のような免許を持つ不動産業者であれば、業者売主の物件であれば、以下のような形で集めることができます。
- 必要な項目を指示してダウンロードするタイプ
- 自社サイトからZIPファイルでひとまとまりすべて提供するタイプ
- クラウドのストレージに保管しているタイプ
- 不動産テック業者を活用するタイプ(「2秒でブッカク!(GA technologies)」など)
ITの活用によらず、メールやファックスによる交付方法も含めると、売主業者による一件資料の交付は、おおむね拒絶する会社はないようです。形はいろいろですが、すぐ検討資料がもらえるようになっているところも増えてきています。
検討資料の提供体制を充実させるのは、これはもっともな話といえます。事業のために不動産を売却してるのが売主業者です。アクセスしやすい状態で検討検討資料を提供することで、仲介業者さん経由で物件をしっかり説明してもらうことで、購入促進につなげたい狙いがあると考えられます。
一般的な個人売主の物件の場合
個人が売主の物件の一件資料の取得は非常にやっかいです。
個人が売主の物件は、媒介業者が受託する物件がほとんどですが、交付をするか否かの対応は、売却を受託する業者の担当者の一存によります。また、交付の手法はメールやファックスによる人力です。そのため「めんどくさい」等の事情もあるのでしょうが、事実上、拒絶されることが多いです。
拒絶の例は大手のほうが多いかもしれません。
拒絶の例としては、たとえば、当社が経験した大手業者に対する検討資料の依頼の体験があります。ご案内の数日前に検討資料を請求しても、交付を受けることができた検討資料は、「交通案内」(他にも、天狗の案内や、これコンビニだとか、病院だとかってのはが書いてある検討資料です。)なんてこともありました。
このような経験は、普通の不動産業者であれば、枚挙にいとまがありません。このようなことは日常茶飯事なので、大手業者の担当者が囲い込み気配を感じた場合は、「直接その業者に行ったほうがいいですよ」と申し上げています。
当社の場合
当社も売主業者のように情報提供をできるサイトを作っています。当社が対応する売主さんは個人であることがしばしばあるので、個人情報も関係しますので、公衆が閲覧できる体制は取っていません。
しかし、免許を有する不動産業者であることが分かれば、登録申請により物件の詳しい情報を閲覧してるようなできる体制をとっています。
- 当社のサイトで閲覧できる一件資料の例
- 登記簿謄本
- 公図
- 建物平面図
- 測量図
- 建築確認台帳記載事項証明
- 概要書
- 建築確認証
- 検査済証
- 評価証明
- 管理の重要調査報告(マンション)
仲介業者さんにこのような情報を提供することで、仲介業者さんの先にいるお客さんにスムーズに情報届きやすくすることが当社の狙いです。
仲介業者さんがしっかりで説明ができれば、お客様の信頼をその仲介業者さんに寄せることができますので、結果として当社に対する仲介業者さんの信頼も高まって、スムーズな営業活動ができるという期待を持って行っています。
また、当社以外でも、仲介業者の立場で、検討資料の提供体制を充実させている会社さんは多くなってきたと実感しています。
海外の場合
海外ですと、アメリカなどは進んでいるようです。
アメリカではMLS(Multiple Listing Service system)といい、日本のいうレインズに近い存在のサイトがあります。MLSは公益社団である全米リアルター協会というのが運営しています。しかしMLSはレインズ以上に情報が充実した不動産情報のネットワークサイトで、そちらに、一件資料に類する情報も載せられています。
一例でいうと、「登記」「固定資産税」「ハザードマップ」「公図」などの情報がMLSのシステムを経由して、不動産業者さんのサイトからから入手できます。
このよう体制が整っていれば、不動産業者は自信を持って購入を希望されるお客様に情報提供できることができると思います。アメリカ礼賛・日本ダメというつもりは一切ありませんが、情報が届かないという状況においては今の日本ンお状況は、まだ微妙な部分もあるなと感じます。
お客さんが直接請求をできるか
まだ、お客様の一件資料の請求に対して、直接対応している会社はないようです。売主業者の物件は仲介業者がセールスをしているのが普通ですので、仲介業者に依頼をしてください。
一般個人の物件は、元付業者との商談であれば直接相談すればよいと思いますが、客付け業者との商談ならば、窓口の不動産業者に依頼をすべきといえます。
ただ、元付業者だったとしても、大きなファイルのメールを送付する準備が必要です。客付け業者は、売主や元付業者に依頼をして回らなければなりません。どの業者に依頼するにせよ、一件資料の収集・送付はそれなりに負荷はかかります。
複数の内見を希望する場合、見学したい物件の全ての一件資料を請求することは控えるべきです。一件資料は個人情報に類する情報もありますので、みだりに請求するものでもありません。まずは図面で一次検討資料を判断、内見、そのあと詳細検討資料というのがマナー(暗黙の了解)と言えます。
また、一般の方々が「一件資料」という言い方をすることは極めてまれですので、「一件資料というのを聞いたことがあるのですが・・・」のような控えめの感じで、表現方法は工夫したほうがいいかもしれません。
しかし、的確な判断には必要な検討資料です。いい物件は足が速く取り合いになることもあります。内見前に期待度が高い物件であれば、請求は遠慮なくすべきです。
「一件書類」の交付は売主にとって死活問題
これまでは買主にとっての一件資料を述べてきましたが、一件書類は売主にとっても大切な資料です。一見書類の交付が的確に買主に伝わらなければ、売主にとっての不利益は甚大です。ここではその例を経験も混ぜながらお伝えします。
ネガティブ情報の伝達
たとえばネガティブ情報の伝え方です。ここでのネガティブな情報はさほど深刻なものでもなくてもかまいません。たとえば、数十年前に雨漏りがあって修繕した等の状況を想像します。
このような情報は、伝え方を誤ると買主の心象を害することがあります。検討資料を確認してから申し込みがくれば、買主も丁寧な検討ができるので、心構えを十分に作ることができます。しかし、あまり検討資料を点検してない状態で思い切って申し込みを入れた買主だと、不利な情報が出た時には、キャンセルの判断確率が高まります。
最初からネガティブ情報をお伝えしていけば、買主は信頼を寄せて判断することが可能です。信頼を寄せている状況での判断であれば、キャンセルの可能性はかなり低くなります。一件資料の情報提供は非常に重要な役割を持ちます。
物件の「つぶし」
元付業者が囲い込みで有名な業者だと、客付け業者は常に囲い込みの可能性を頭の片隅に置いています。そのなかには「買わせないように潰してしまえ」と言わんばかりの対応をする業者もいます。
潰すとは、不動産業界の隠語ですが、特定の物件に関するネガティブな情報を、あること・ないことにかかわらず、お客様に吹き込んで、判断対象から外させる行為です。物件をつぶされてしまうと、決まる物件が決まりません。
適切な情報が提供されれば信頼を持って仕事をできるはずです。信頼関係がないと、買主側の不動産業者からすると、あとで囲い込まれて徒労に終わることを警戒します。あと後で梯子を外されるのであれば、最初から検討対象にならないよう、潰すという行為に出るわけです。
ボタンの掛け違いさえなければしっかりとコミュニケーションが取れて物件を判断できて、一つの商談がまとまったかもしれないものを、このように、的確な情報の提供体制の有無だけで、対応が変わることはよくある話です。資料の提供訂正の構築だけでも、このように、信頼関係ががらりと変わることもあります。
レモン市場
レモン市場という言葉があります。物件の内容が買い手にとって未知であるために、買主は「高くてもよい物件」を検討しなくなるような現象です。レモンの味は食べるまで酸っぱさが確認できないということで、レモン市場というそうです。
今の不動産情報で起こっているのはまさにこのような状況で、しっかりと情報交流をする体制を整えておけば高く売れる可能性もいくらか違ってくるようになるといえます。物件を有する側に情報があることを放置すると、買う側の方には情報が正しく流れてこないため、最悪となるリスクを前提として、安い金額で資格価格交渉するようになるからです。
もちろん、不動産が売れるのは「運「縁」「タイミング」といった不確定な要素を無視することはできません。しかし、不動産業者は不動産業者の利益のために行動してることは、頭の片隅においておくべきです。
一件資料の交付手法
それでは、どのような手法をとれば、一件資料を流通させることができるでしょうか。たとえば当社では『業者間の詳細情報提供サイト』を運用して、一件資料をぬかりなく公開しています。デジタルを活用して自社客のみならず、客付け業者に対してもいつでも情報提供ができます。
従来の不動産業者はココが全く手つかずで、もはや機能不全と言える状況でした。資料が十分に提供されて、しっかり把握できるようになると、他業者の営業マンが安心しておススメくれるというわけですね。
であれば、大きな会社や中堅の会社が、売主業者のような情報サイトを構築できないはずありません。当社の場合にあら、一時間半ぐらいをかけて構築したものです(セキュリティ機能や使い勝手の改良などもありますので、実際には一時間半プラスαですが・・・)。2秒でブッカクというそれに特化したサービスもあります。
となると、できないのではなく、やらないと考えたほうが正しいようです。古くからある不動産会社は、囲い込みがきつかった昭和の名残で、情報共有に不信感があるみたいですね。ITを活用するという発想もないようです。抜きつ、抜かれつを繰り返してきた歴史があり、一度売却を受託したら利権を確保したという意識から抜け切れていません。
多くの仲介業者が情報提供に後ろ向き理由
一件資料の提供体制を整え、物件の情報公開を透明にすれば売主にも買主にも有益なはずです。現実としては、大手も含め、多くの仲介業者が一件資料の提供体制を整えていません。なぜでしょうか。
囲い込みをしたいから
穿った見方になりますが、やはり物件の囲い込みをしたいというところだと思われます。
先ほどの例でいうと、不動産業者が「検討資料をください」といえば、交通案内を意図して検討資料下さいとい意味で言っているわけではなく、本当に必要な検討資料は、謄本や評価証明など、一件資料のことを指すのは明白です。それは、むろん先方の不動産業者も十分理解をしています。
しかし、我々のような外部の不動産業者に、詳細の物件情報をあえて提供しなければ、購入を検討するための情報を、買主は的確につかむことはできません。つまり購入対象として判断ができません。巡り巡って外部業者からの紹介を遠ざけることが可能になります。
囲い込みのためには、物件の契約が決まらず、それで終わったとしてもかまいません。むしろ、うまくいけば、お客様が自社に飛び込んできてくれるかもしれません。いわゆる抜き行為です。そこまで思ってないかもしれませんが、そういう事例が存在するのも事実です。客付け業者も指をくわえて抜かれるのを待ってはいませんので、上述のように、物件をつぶしておくわけです。
個人情報の問題というのかもしれませんが、そこまで深刻な個人情報は、一件資料にはありません。むしろ、早く高く売れるほうを希望するはずです。
囲い込みの目安にもなる情報流通の姿勢
先述のように、一件資料の交付は、やんわりと拒絶する業者もいます。大手も例外ではありません。拒絶する業者からすれば、調べればわかるという理屈もあるかもしれませんが、売主さんから委任を取らないと分からない情報や、調べづらい情報も多数あります。
また。買主さんも複数の物件を検討している場合もあります。全部の物件の調査を客付け業者はすることもできません。その意味では、筆者は一件資料の提供は物元業者側の義務と言えると思います
このように、一件資料の提供体制の有無は姿勢を見極めて、囲い込み対策をするよい目安となります。個人の売主さんが売却の依頼先を選定する際には、情報開示に積極的な業者を選ぶべきといえます。
積極性を確認するには、情報を交付するサイトなどの窓口をしっかりと構築している業者が良いでしょう。