不動産売買契約書を実例で解説
契約とは当事者間の約束として義務を生じさせるものであり、売買契約書には、「取引対象(住所、面積、権利内容)と条件(売買代金、支払時期、手段)」「引渡条件に関する条項」「解約・解除に関する条項」が記されています。
不動産は高価で重要な財産ですので、口頭だけでは足りず、書面により契約を締結すべきとされています。
不動産業者が入る売買契約では、「重要事項説明書」と「売買契約書」が実務上の最重要書類です。重要事項説明書が契約対象となる物件の状況を示す「設備表・状況報告書」がこれに続きます。
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author:春日秀典
目次
不動産売買契約書の意義
一般的に、契約といえば口頭での合意だけでも契約は成立しますが、不動産は高価で重要な財物なので、単に口頭での合意や買付証明の収受だけでは足りず、契約書による契約を締結すべきという裁判例があります(東京高裁昭50年6月30日ほか)。
重要事項説明書と違い、不動産売買契約の成立は必ずも不動産業者の関与は必要ありません。そのため、現金での売買では不動産業者を入れないケースもあると思います。しかし住宅ローンを利用する場合は不動産業者が関与した契約書が事実上、必須です。
契約当事者が契約内容についての誤解や不十分な理解により、後日紛争になることがあるかもしれませんので、不動産業者が入る場合には、所定の事項を明記した契約内容を記載した書面の交付が義務付けられています。これを37条書面といいます。37条書面には、現実の紙に宅地建物取引士の記名・押印をすることが義務付けられていて、一定の信頼性があるからです。
契約の諸情報
契約書の表面は契約の概要が記されています。売買対象となる物件の情報(所在地・面積・構造等)、取引の条件(代金・時期・解除条件等)、取引当事者、媒介もしくは売主となる業者の名称などです。特約がある場合にはその内容も記します。
目的物の特定
「目的物」とはいいかえると「対象」ということであり、「契約の対象となる物件」ということです。目的物の特定には、主に、登記簿(全部事項証明書)の表題部に記載されている事項を確認して、転記します。【不動産の目的物】の中には、住宅設備や残置物(家具・物品など)はこの欄では扱いません。これらは付帯設備表を用いて確認します。
土地
- 所在地・住居表示
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所在地とは番地と住居表示で指定します。
住居表示は建物を基準にした住所の特定です。記所(法務局)が定める「地番」とは異なります。都市化が進み、番地が複雑になりすぎた事態を解消するため、市区町村の役所が建物を基準に指定しています。大都市で用いられる住所ともいえます。住居表示は住民票の住所であり、郵便物が届く住所です。
番地とは地番を基準にした住所の特定です。番地は登記簿の地番と一致します。
- 地目
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地目とは土地の利用方法のことです。登記簿上の地目は現況とは異なる場合があります。
当社の扱う地域の土地の地目はほぼ「宅地」です。あまり気にすることはないと思います。加えて私道の場合の「公衆用道路」があるくらいです。しかし「田」「畑」など宅地以外の地目は取引に規制がある場合があります。
- 面積
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面積は登記簿上の面積を指します。登記簿上の面積を「公募面積」といいます。
- 権利
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マンションの場合、さらに敷地権登記がされている場合があります。知己地検とは建物と一体化した土地に対する土地の利用権のことです。建物を取引すると土地が自動的についてきます。
- 持分
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共同所有となっている場合は持分を明示して、数量を売買対象とします。マンションの場合は共同所有となりますが、一戸建てでも家族で所有すれば持分という表現が出現します。
建物
- 一棟の建物の名称
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マンションの場合には一棟の建物の名称を明記します。古いマンションですと登記簿にはマンション名の明記がないこともあります。その場合は管理規約などの典拠を利用して明記します。
- 建物の規模構造
- 工法、階数、屋根形状、
- 種類
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建物の種類のことです。ここでは「共同住宅」ですが、一戸建ての場合は「専用住宅」となります。ほかにも「倉庫」などもあるかもしれませんね。
- 建築時期
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原則として登記簿に記載した完成時期を明記します。
- 家屋番号
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家屋番号とは、法務局が不動産登記法上の建物に付する番号であり、一つ一つの建物を識別するための番号、いわばコードナンバーです。登記所は一個の建物ごとに1つの番号を設定しています。家屋番号は敷地の地番と同じ番号を付するのが原則ですが、2つ以上ある場合は、〇番の2、〇番の3・・・など、支号を設定します。
マンションの場合は部屋自体を指定する番号です。住所のような表現ですが、住所や部屋番号ではないことに注意です。一戸建ての場合は建物全体を指します。
- 構造
- マンションの場合における取引対象の規模・構造です。メゾネットを除くと、多くは1階建てに貼るはずです。
- 名称
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マンションの場合は部屋番号が建物の名称です。一戸建ての場合はこの項目はありません。
- 種類
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ここでは居住用マンションですので「居宅」となります。「店舗」「事務所」などの場合もあるかもしれません。
- 面積(数量)
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マンションの場合は内法面積を明記し、加えて壁芯面積を添えます。壁芯面積は後述にて根拠を明示します。
- 附属建物
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従たる建物のことです。主たる建物と一体となって機能を果たす建物です。登記簿に「倉庫」「駐車場」などが記載されている場合があります。特別の合意がなければ種の建物ともに取引の目的物となります。
諸条件の確定(金額と期日)
- 売買代金
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物件価格のことです。消費税がある場合には、消費税を明記したうえで、消費税と一体の金額を表示します。消費税がわかると建物価格が確認できます。
- 手付金の額
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手付金は、売買契約を締結する証拠金であり、契約の解約のときに放棄すると契約を白紙解約することができます。
- 決済期日(期限)
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引渡し期限のことです。原則、役所営業日の平日を指定します。通常の取引では支払方法は振込によることと、決済日同日付で所有権移転などの登記を行うためです。
決済期日の前倒しは期日前の実施ですので、口頭で行うことは可能でです。後倒しは違約扱いとなるため、書面による再合意が必要です。
- 公租公課の清算
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固定資産税・都市計画税のことです。関東・関西で慣習が異なるため、計算開始期日を明記します。関東流は毎年1月1日を指定します。
- 手付解除の期日
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手付金の放棄により契約を白紙解約することができますが、個人間売買のときには、その期限を設けることが通例です。最終シンキングタイムともいえます。此の期日を過ぎると違約として扱うようになり、損害賠償としての取り扱いに移行します。
宅地建物取引業者が売主となるときは法律の強行規定により、期日を設けることができません。これは該当項目で詳しく説明します。
- 違約金の額
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煩雑な事務を避けるため、違約扱いとなった時に備え、損害賠償の金額を予定しておきます。ここではその金額を確認します。
- ローンの申請先と金額
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ローンの申請先と金額について、契約で合意した内容を明記します。
- ローン承認の期日とローン解約の期日
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ローンを利用する場合の本承認の期日について、ダラダラしているわけにも参りませんので、明確にします。買主の頑張りの期限であり、売主が待つ期限でもあります。
特約
特約では、印紙の負担区分、司法書士の指定者を明記することが多いです。例示の特約はあっさりしていますが、特約が記入欄を超える場合もあります。その場合には「特約続き」として、別紙を立てます。
当事者の記名捺印
契約締結日を明示したうえで、売主・買主が、それぞれの住所氏名を記名して、捺印します。
売主と買主の記名捺印
共同して売主となる場合や、共同で買い受け人がいれば、その人たち全員の記名が必要です。売主が宅地建物取引業者の場合は、宅建業者の免許番号を明記して、法人としての記名捺印と、取引士の氏名・取引士番号を明記して、捺印します。
代理人(法定代理人を含む)が記名捺印を行う場合には、実務では、売主本人の印鑑証明を添付し、実印を押印した委任状の提示を求められます。
関与業者と宅地建物取引士
免許の番号、所在地、取引士の氏名・取引士番号・捺印します。複数の業者が関与していればすべての業者の情報を記入します。※宅地建物取引業法37条3項
約款
不動産業者が利用する約款の内容は、大手も含め、どの業者でも、各業者が所属する業者協会(全日本不動産協会、不動産流通経営協会:FRK、全日本宅地建物取引業協会など)が作成したひな形を用いることが多いようです。
各協会では民法・宅地建物取引業法にもとづいて、弁護士などもともに、売主・買主・仲介業者のいづれも不利にならないよう、真ん中を目指して案文を作成しています。そのため、驚くべき内容はありません。
約款に記載する内容は大別すると、引渡条件に関する条項、解約・解除に関する条項、その他の関する条項に分かれます。
引渡条件に関する条項
第1条(売買の目的物および売買代金)
この条項は複雑そういろいろ細かく書いてあるようにに見えて、実は書いてあることは、「売ります」「買います」ということです。これ以上に深い意味はありません。「表記」とは「表面に記載した目的物」を「表面に記載した条件で」ということです。
第2条(手付金)
手付金の支払いは契約の署名捺印と同時・同日が原則です。実務上は預け金という形で前倒しをすることはありますが、少なくとも、後ろ倒しにすることはありません。
手付金の支払いを後日にすることはトラブルの可能性を含んでいます。業者売主の場合には、与信の供与となり、宅地建物取引業法の違反にになる疑いがあります。個人売主の場合には、手付0円契約と判定される可能性があります。手付0円契約はデメリットがあります。
契約を締結してから決済までの期間、手付金は代金として扱われません。証拠金として扱われ、決済日に売買代金の一部として繰り入れられます。
第3条(売買代金の支払いの時期、方法等)
代金は日本円の現金で支払います。実務上は振込での支払いとなりますが、これは現金として着金しますので法的には現金です。預金小切手は交渉を要しますが、法的には現金同等物で、実務上は交渉の余地はあります。ビットコイン等、外国通貨、手形ならびに先日付の小切手は不可です。
決済期日の前倒しは期日前の実施ですので、口頭で行うことは可能です。後倒しは違約扱いとなるため、書面による再合意が必要です。再合意が整わなければ違約となり、損害賠償という話に移行します。
第4条(売買対象面積)
事例のケースは公簿売買といいまして、登記簿の内容に基づいて価格を設定し、後日、面積に差があったことが判明しても「言いっこなし」で、清算をしないという契約内容であることを意味します。
ただ、マンションの場合は、公簿売買の面積の差異がトラブルの種になることは、実際には考えづらいです。マンションも、建物完成時にも、建物を測量しており、設計図通りに作っていれば、登記簿面積と実際の面積が異なることは現実にはありません。
しかし、土地売買や一戸建て売買の場合、注意が必要です。土地の面積については、登記簿記載の面積と実際の面積が、測量の結果によって、違っている場合があります。昔と比べても測量技術には進歩がありますので、実際の面積とは異なることは、割と高い可能性でありえます。
第5条(所有権等の移転の時期)
「お金を払えば所有権が移転する」。当たり前のようにも見えますが、この条項がないと、日本の民法では、契約を締結した瞬間に所有権が移転をする可能性があります(民法176条)。実際にはローンの審査などの業務がありますので、契約を締結した瞬間に所有権が移転するのでは大変具合が悪くなってしまいます。後述の危険負担などの話とも連携します。
第6条(引渡し)
引渡しとは、具体的には空室にして鍵を渡すということです。少し難しい言い方ですと、「占有を移転する」とも言います。所有権の移転と引渡しは必ずしも同じ日でなければならないとは限りません。
しかしこの条文があることにより、「お金を払う」「名義を変更にする」「空室にして引き渡される」が連動します。しかし別の特約を立てることで、引渡しだけ後日にずらすことも可能です(引渡し猶予)。
引渡しを完了した日を記載した書面は、不動産業者がひな型を作成します。
第7条(抵当権等の抹消)
所有権の移転時期までには「きれいな所有権にして名義変更を行う」ということです。なお、敷地利用権としての借地権(賃借権・地上権)はこれには含まれません。
売主の抵当権抹消が買主の残代金の資金による場合には、抵当権の抹消と所有権の移転は同時に行うものと理解します。実務上は所有権移転の書類と抵当権抹消の必要書類を全て揃えたうえで、司法書士が同時に法務局に提出します。
第8条(所有権等の移転登記等)
所有権の移転に応じる義務者は売主であり、便宜を受け受けるのは買主であるため、事例のような処理を行うことが一般的です。ただし住所変更登記、抵当権抹消登記など、売主固有の事情による登記変更は、売主の負担となります。
第9条(引渡し完了前の滅失・損傷)
契約締結後、引渡し前に物件が壊れた場合に、解約などの処理を、どのように扱うかという条項です。法律用語では「危険負担の移転」といいます。日本民法では、この条文がないと、契約時に責任が移転する可能性がありますが、お金を払う前に物件が壊れたという事態の責任を負うというのは、通常の感覚とは違う場合もありますので、あえて明記します。
ポイントは、買主いずれの責めにも帰すことのできない事由ということです。つまり誰のせいでもない場合に物件が壊れてしまったのであれば、白紙解約ができるということです。
なお、修理ができるようであれば、修理をして引き渡しますが、修理できる場合にいおても、売主のせいで引渡しが遅れたのでなければ、その損害(宿泊代等)については、請求をすることはできません。
第10条(物件状況等報告書)
買主は「状況報告書」により物件の内容を確認することができます。契約不適合責任のためは、物件の状況を明らかにしなければなりませんが、この書面は物件の状況を確認、特定するための資料となります。「言った」「言わない」がポイントになるときに、非常に重要な書面です。
状況報告の根拠は売主の表明によるものです。ある程度の不動産の状況は仲介業者の重要事項説明書などで確認できますが、告知事項など、売主でなければ知りえない事項は、この書面で伝達するよう仲介業者から求められます。
第11条(公租公課等の分担)
公租公課とは固定資産税・都市計画税のことです。このほかマンションであれば管理費も含まれます。仮に滞納があったとしてもこの条項をもとに清算をします。
解約・解除に関する条項
第12条(契約不適合による修補請求、代金減額請求および損害賠償請求)
この条文は少し長くなります。
契約不適合とは、「契約書にて約束した状態に適合しない」ということを意味します。「契約書にて約束した状態」は、契約書、重要事項説明書、付帯設備表・状況報告書、販売図面などによって説明されています。たとえば「○○が壊れている」なら、契約書に約束する形で、お伝えしなければなりません。お伝えしなければ、約束したことにはなりません。ただし中古住宅の場合は、通常、経年劣化をしていることはお伝えしていますと思います。
また、住宅として買った場合であれば、「住むことができる」ということが前提となります。
さて、条文の各号をみますと、まず(1)で「修補」とあります。修補とは修理のことです。
(2)では、契約不適合の責任の追及の流れが書いてあります。まずは修理の請求から開始します。修理ができないときは、代金の減額請求へと進みます。しかし、修理を受けられない時には、直ちに減額請求が可能ということを意味します。。
(3)で記しているのは、、契約不適合状態の責任が買主の責任であれば請求はできないということです。
契約不適合が売主のせいでなければ、対応の内容は、修補もしくは代金減額にとどまるものとし、損害賠償に進むことはできませんと、2項で書いてあります。
3項ですが、この事例では、引渡し完了日から2年以内に通知すれば売主は契約不適合による責任を負うことになります。これは売主が不動産業者の場合、瑕疵担保責任を2年が必須という宅地建物取引業法の規定に対応するものです。ただし、個人間売買の場合、一般的に、3か月などの期間設定となることが多いようです。
具体例で感がてみましょう。たとえば、配管の漏水が出たとします。このとき、まず修理せよという話から進み、修理に応じない場合は、修理に要した分のお金を返せとなります。
また、契約不適合の範囲は物件の物理的なものだけもありません。心理的な場合もあります。例えば「告知事項」です。告知事項がある場合、契約書面にて約束した内容に該当させようとすれば、契約書や付随する文書で的確に伝えななければなりません。告知時億の場合、「修理」はできないと思います。そのため、ただちに代金減額請求が可能です。ただしその告知事項が売主のせいであるのであれば、損害賠償請求も可能です。このよう処理の流れは、これまでの裁判例に即したものとなっているようです。
第13条(設備の引渡し)
買主は「設備表」により物件に付属する設備を確認することができます。契約書本紙では記述すべきスペースの関係で足りない場合もありますので、この書面は設備の状況を確認するための資料となります。つまり、設備表の添付は契約不適合責任の内容を明らかにする一環となりえます。
設備表の作成は、仲介業者の依頼に基づき、売主が表明したものです。故障状況など、日常生活でなければ知りえない事項は、この書面で確認することができます。
第14条(手付解除)
手付金を放棄することで解除できる規定です。この事例は売主が不動産業者であるため、「履行の着手まで」、手付解除ができるという記述になります。
つまり、業者が売主の場合には、売主が履行の着手に入るまでは、いつまでも解除が解除ができるということです。これは買主を保護する規定です。個人間の場合は、この解除期間について、「1か月」など具体的な取り決めすることがほとんどです。
ところで、「履行の着手」とは具体的にはいつまでか気になるところです。履行の着手のポイントは「取引の相手のためにアクションを起こした」時点です。売主の履行の着手の例では「売主がオプション工事に着手した」「売主が抵当権抹消の申請を行った」などをよく見ます。
買主の履行の着手の例では「ローン本審査に着手した」なども、適用される可能性があります。争いが生じた場合には、具体的な日時は裁判において個別具体的に判定を受けることになります。
第15条(修補の遅滞等を含む契約違反による解除・違約金)
履行の遅滞とは、「物件を引き渡さなかった」「代金を支払わなかった」ということです。その場合には損害賠償の扱いとなります。前述の契約不適合にて、合理的な理由なく修補に応じなかったり代金減額に場合も含みます。
損害賠償の扱いになった場合には、あらかじめ契約した賠償額を支払います。損害額を算定していると時間もかかりますし、契約では履行遅滞はないことが前提であるため、損害賠償とはペナルティという性質が強いからです。
買主が履行遅滞をしたときには、既に手付金を支払っているので、残りの分を支払います。売主の損害賠償は手付金を返金したうえで、損害賠償を支払います。
第16条(反社会的勢力の排除)
取引の相手方が反社会勢力の場合には100%のペナルティを請求できます。
反社会勢力といっても、概念としては包括的な概念で、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団、半グレ集団などの犯罪組織及びその協力者たちを広く呼びます。ただ、これだけではあいまいな部分もあり、裁判などで確定すべき場合もありるかもしれません。
実務においては「全国暴力追放運動推進センター」もしくはここから情報提供を受けたデータベースに登録された個人・団体を確認することになります。
第17条(融資利用の特約)
ローンキャンセル、ローン解約などとも言いますが、この規定があると、万が一ローンが通らない場合においても、買主を保護することができます。契約は、何もなかったものとして扱われ、手付金は返金されます。
ただし、この文言は売主と買主の関係を規定するものです。当事者以外の費用は返金されません。たとえば、すでに貼布した印紙代、調査に要した特別な費用などです。
その他の条項
第18条(敷地権が賃借権の場合の特約)
賃借権とは借地権の一種ですが、賃借する権利の移動には、土地の地主の承諾が必要です。詳しくは「借地権のマンション」「借地権の住宅ローン」をご覧ください。
対人の相談になりますので、承諾をしない場合というのもあり得ます。その場合は、ローンキャンセルと同様に、白紙解約となります。
第19条(建物の構造耐力上主要な部分等の状況について双方が確認した事項)
「建物状況調査」がある場合、その内容を表明するものです。建物状況調査とはインスペクションともいいます。
第20条(印紙の負担区分)
印紙法により、印紙は契約書の原本に貼らなければなりません。印紙税といます。契約当事者が負担すべきものです。
不動産業者が売主となる場合の慣例では、売主はコピーをもらい受け原本を保有しないので、買主が印紙代を負担するという扱いが多くなっています。
これに対して個人間売買では、両当事者が契約書の原本を保有するので、自らの原本の印紙を負担する扱いが多くなっています。
第21条(管理規約等)
管理規約等とは、マンションの場合は管理規約や使用細則です。マンション以外の土地や一戸建てのでは、自治会規則なども含まれます。
第22条(契約当事者が複数のときの特例)
連帯債務とは、売主側もしくは買主側どちらもでもよいのですが、それぞぞれの当事者が、契約の履行の責任を全て負っているということです。もう少し詳しく言うと、連帯債務者の一人、同時あるいは順次に、全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができるものを、「連帯債務」といいます。
たとえば、ご主人がローンを組んで、奥様が現金で支払い、夫婦で住宅を買うべく契約をしたものの、後日、奥様が彼氏をつくって失踪した事例を想定します。この場合、売主はご主人に契約の履行を請求できます。しかし、ご主人は「妻の実家は金持ちだから、現金の部分は妻に請求してくれ」と抗弁できません。これが、それぞぞれの当事者が、契約の履行の責任を全て負っているということです。
それぞぞれの当事者が、契約の履行の責任を全て負っているわけですから、どちらか一人に通知が届いた場合には全員に効力が生じるとするのは、その結果として当然とも言えます。
第23条(管轄裁判所に関する合意)
東京の物件なら東京の裁判所で、大阪の物件なら大阪の裁判所を管轄裁判所とする契約です。物件の所在地の裁判所を利用するというのがおそらくもっとも公平だと思いますが、海外・遠方の居住者には少し不利になるかもしれません。
第24条(規定外事項の協議義務)
「信義誠実の原則(信義則)」にもづいて処理するという趣旨の規定です。契約においてトラブルとすべき事態が生じた場合、まず、契約書に書かれていることが適用されます。契約書に漏れがあれば、法律によって判断します。しかし日本の契約慣習では、神羅万象すべての例外を想定して契約を締結するわけはありません。法律も同様です。そのとき、信義則の登場です。信義誠実の原則とは、具体的事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという原則をいいます。