中古の大規模マンションのメリット・デメリット
100戸以上を大規模ということが多いですが、具体的な定義があるわけではありません。
大規模であることは管理のスケールメリットが増して、資産価値に影響を与えることはあります。しかし大規模だから資産価値が高いというわけではありません。
共用部の充実も将来のメンテナンスコストの増大に直結します。規模マンションによるメリット・デメリットの位置づけはコインの表裏のようなものです。
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author:春日秀典
目次
大規模マンションの定義
実は、大規模マンションの定義というのは、まだありません。俗に40戸未満を小規模、40~100戸を中規模、100戸以上を大規模ということが多いですが、法的・建築的なものではありません。「100戸くらいあれば、販売戦略上、大規模と言っても差し支えないだろうから大規模と言う」ぐらいの感覚です。
大規模は資産価値が高いのか?
大規模のほうが資産価値が高いとか、まことしやかに言われますが、大規模だから資産価値が高いということはなさそうに感じます。マンションの資産価値は第一に立地・環境、第二に建物・躯体(変わらない部分)、第三に管理によって方向性が決定づけられます。これは規模にか変わらず同じです。大規模であるがゆえ、管理のメリットが増して資産価値に影響を与えることはあります。しかし、大規模だったら何でもよいということではありません。大規模でも管理状況が優れない物件もあります。小規模マンションでも管理状況が優れる物件はあります。
新築は大規模が売りやすい
しかし、新築では大規模マンションが売りやすい傾向にあるのも事実です。何故新築が売りやすいか。マンションの販売を経験してきた立場からすると、経験的にはマーケティング(販売促進)の優位性です。
多額の広告費をかければ、「すごい物件感」が演出できます。かつて、タワーマンションの販売広告で歌手のマドンナさん、俳優のリチャードギアさんが登場したこともありました。世界クラスの超大物のエンターテナーを起用できるのも数百戸~千戸の相当の広告費(数億~数十億)があるから。
さらに、広告のプロを起用して、分厚いパンフレットにイメージビデオを視聴し、「すごい物件感」が演出されます。そういったなかでマスに販売され、セールス面のアオリが利く局面で、いつの間にかハンコを押してしまうような販売シナリオで進めていきます。冷静に見れば、すごい物件を買う自分に酔っているいる側面はあるのかもしれません。
30戸のマンションの販売戦略では、大物どころか無名のモデルさんも登場しません。また、1戸の中古マンションを売るのにリチャード・ギアは登場しません。つまり、中古になってくると物件の力が明確になってきます。しかし、落ちついてマンションの良しあしを分析することができるのは、中古の検討のメリットです。
大規模マンションの形態
都内の大規模マンション
都内の例で言うと、23区の場合、大規模マンションは明治通り(環7)の外郭部に多いように思います。明治通りの内側は江戸市中ですので、昔からすでに以前に土地が細分化されていました。環七の内側は戦前に宅地化しました。具体的に言うと、千代田区、港港、中央区、渋谷区、新宿区、文京区、台東区あたりと、豊島区、中野区、杉並区、品川区、目黒区の一部です。です。昔からの地名がある新宿・千代田、山の手の武家地だった文京、碁盤の目になっている台東区などです。土地が細分化されているところでは、おのずと大規模マンションの用地を取得することが難しくなり、供給が少なくなります。江戸の名残があるところでは、大規模マンションは少ないはずです。後述の大規模マンションのメリットが生きるため、相対的に希少感はあるように思います。
また、東京以外でも、歴史のある町については、同様のことがいえると思います。
郊外の大規模マンション
都内では大規模マンションの立地は、明治通りより外郭部のエリアに多くなるように思います。バブル前は農地だったところが、バブル後は工場が撤退した敷地などが、大規模マンション用地供給の主力です。具体的には、江戸川区、葛飾区、足立区、板橋区、練馬区、世田谷区、太田区、杉並区、中野区の一部などです。ただし比較的高額な後者4区は、バブル前の建設が多いと思います。
タワーマンション
超高層マンションは大規模マンションの新たな形態です。タワーマンションゆえに、タワマンなどとも言います。高級感があり、みんなの憧れのようになった感があります。いまのタワマンの流れを形成づけた嚆矢として名高いのは中央区のセンチュリーパークタワーと川口市のエルザタワーです。とくにセンチュリーパークタワーは周辺の相場が250~300万/坪とされていた時代に、350万円となっていました。都心では希少な優れた眺望もあるため、プレミア感の演出にも成功しました。このように、周辺と比べても数割は価格が高いマンションでしたが、市場のなかでも特殊な位置づけがされていました。
通常の大規模マンションが横への広がりなのに対し、タワーマンションは縦方向に開発を展開した大規模マンションとして見ることができます。バブル崩壊後、都心回帰という傾向が強まり、都内への需要が強くなるという時代背景もありました。そのため、ある程度まとまった敷地があり、高さへの規制が緩和されていればタワーマンションにすることができます。都心で高級感をまとって建設されるタワーマンションは、時代の流れの必然とも言えます。
山形県の上山市にはスカイタワー41というマンションがありますが、同物件の位置づけは少し特殊かもしれません。
大規模マンションのメリット
それでは、大規模マンションのメリットとデメリットについて考えていきましょう。
共用部が充実
まずはよく言われることですが、共用部の充実が挙げられます。集会室は基本として、ゲストルーム、キッズルーム、スタディルームはもちろん、物件によってはプール、映画室などを備えているものもあります。土日の物件案内に参りますと、キッズルーム、スタディルームなどの設備は実際に使われていることも多く、活用されている施設だと感じました。
複数の棟で形成される大規模マンションは公園などの形成が行われていて、すでに好ましい環境が形成されています。
また、「ブリリアマーレ有明」などの湾岸タワマンでは、バー、ジム、プール、スパ、セラピールーム、屋上テラスなどの共用部を最上階に持ってくる等の斬新な提案もされていて、おおむね支持されてています。
ただし、後述の通り、共用部の充実はデメリットにも転化する可能性を秘めています。
管理費が安い
これもよく言われることですが、管理費・修繕積立金が割安である傾向があります。母集団が多いので、安くなる傾向があります。管理人さんの人件費、電気代、メンテナンス費用はどうしてもかかる経費です。これらの経費は総戸数が多くなるほど、負担割合も下がります。
ただし規模が大きく管理費が安いことは、管理体制が良好であることには直結しないのは注意です。
規模が大きいということはスケールメリットもあります。修繕積立金もどんどん溜まっていき、財政の自由度が高いマンションも多いようです。このあたりは管理体制の良好さに反映されていきます。
コミュニティが形成
ある程度は分散するものの、おおむね子育て世代が入居するものですので、似たような境遇となります。幼稚園から始まり、高校・大学まで同じような所得水準で、同じような境遇の方々が多くなりますので、生活上の課題を共有することも容易です。ご近所づきあいが苦手ではない方には、好都合といえます。
また、世帯数が多いと見識のある方が何人かは出てくるもので、住民意識が高くなる場合もあります。見識のある方々のなかには不動産に関する、知識がある人、会計に見識がある人、建築に見識がある人、法律に見識がある人も含まれます。このような見識を備えていれば、管理会社を上手に使いこなすこともできるようになります。とくに、強いリーダーシップのある名人が管理組合の理事長になると、管理会社的には苦しいですが、マンションの資産価値は高まるでしょう。
(経験上)耐震性能がよいことが多い
重要事項説明のための物件調査をしていると、旧耐震の年代の大規模マンションでも、耐震診断の評価が良いために新耐震同等と評価ができる物件があることを経験的に多く見つけることができます。これといって主な耐震改修をしていないにもかかわらずです。ここでの評価とは、多額の費用をかけて科学的な耐震診断をしていますので、データ的には信頼ができます。
雁行タイプや独立柱があるマンションでは耐震性は期待できませんが、そのような凝ったもの以外では、生産性が高く建設をしやすマンションにするために、形状をシンプルな四角いようかん型にすることが奏功して、建物の強度や靭性が高まったのではないかとみています。つまり、コスパを高めるのが狙いだったのが、シンプルに決まって耐震面でも奏功しているのではないかとみています。ただ、経験的なものですので、実態は不明です。
このような条件に合致する大規模マンションでも、地盤の悪いところなどでは、東日本大震災では袖壁がせん断破壊していたマンションも見受けられます。一概には言えませんので、あくまで経験的な傾向です。
大規模マンションのデメリット
大規模マンションの場合、メリットはデメリットに転化する可能性を秘めています。
リーダーシップがないとまとまらい
「船頭多くして船山に登る」といいますが、多くの人々がいるということは、話がまとまらないことが多くなります。
話がまとまらないのだけならまだよく、無関心が恒常的になると、マンションとしては少し厳しかもしれません。財政規模が大きいだけに、外部の管理会社が甘い汁を吸う可能性が高くなります。前段で申し上げた通り、人が多いと見識の高い人が出ることも多いため、このようなマンションは意外と少ないですが、ないわけではありません。
メンテナンスコストが増大する
居住者にとって利用価値のある共用施設は、基本的な施設です。集会室や駐輪場といったものが該当します。郊外では駐車場も含まれるかもしれません。ゲストハウスも便利です。
華美や目新しさで訴求する共用部のなかには、そのうち飽きてしまうものもあります。リゾートマンションの温泉などを見ているとよくわかります。また、日本のマンションは似たような世代属性が多く入居する傾向がありますので、年齢が増すにしたがい利用頻度が下がります。高齢者だけのマンションでキッズルームは不要となるでしょう。また、カーシェアが日常的な都心部では車の所有率が下がる傾向にありますので、機械式駐車場は廃棄のためにも負担になる可能性を秘めています。
同じような時期に売出しが重なる
規模にかかわらず、マンションの場合、5年目で一巡目のライフスタイルの変化の節目、15年目くらいで二巡目の変化の節目が来ます。このときに売りブームが来るようです。一巡目は子供さんが出来て大きな住まいが必要になったような場合です。二巡目には転退職、創業・引退、実家の介護などでの転機のタイミングです。マンションの価格が下がる場合、このようなタイミングに顕在化します。近頃は、2020年のタワマンの暴落をささやかれていますが、タワマン暴落論は極端にしても、似たようなライフスタイルであれば、似たような時期に売出しが出ますので、注意が必要です。
ただ、高額タイプの大規模マンションに顕著ですが、仮に売出しが多くなっても、売り急ぐ必要がない人も多くなります。そのため、マーケットを観察する限り、いきなり暴落することもないようです。むしろ規模も大きいため、仲介業者は売り物件をよく知悉していることも多く、紹介機会は多くなり、注目を浴びることになります。一方で、少しでも条件が悪くなると、長期間にわたり買い手がつかないという現象に直面することもありえるため、厳しい側面もあります。
ちなみに、売りものが出る時期を過ぎると、売出し件数は収束して、安定するように感じます。注目を浴びるメリットは享受できます。
かえって不便なことも
外出・帰宅は「長い共用廊下」を歩くことになるため、表面上の駅徒歩分数と比べても、ドア TO ドアの長さは実感では長くなります。シャフト数が少なめの設計ですと、エレベータ待ちなどはよく聞く話です。実際にイライラすることになります。
建物の死角
前の段落で「長い共用廊下」と記述しましたが、コーナーなどが多くなりますと、死角が多くなります。人の目が届かない共用部も多くなります。強盗、暴行、盗難の死角になることもあり得ます。また、他者のお部屋まで含めると何かしらの心理的瑕疵を認知する可能性もありますので、一分の瑕疵も許容できないという方には向かないかもしれません。中古では、共用部の様子も含めて検討できますので、中古の大規模マンションを現物で検討できるメリットです。